島を出る直前のこと。
月が浜で、服を着たまま、
夕暮れの海にぷかぷか浮かんでた。
すると。
次から次へと、
マングローブの芽が、
わたしの広げた腕の中に入ってくる。
「拾ってくれー」
そう聴こえた。
辺りを見回しても、
他に浮いてるマングローブなど見当たらないのに、
ひとつ拾うと、またひとつ。
波の間から、マングローブが現れた。
マングローブは、河の植物。
淡水と海水の混ざる、河口付近にマングローブ林は広がる。
枝から落ちた、マングローブの種(芽)は、
水を漂い、着床して、育っていく。
河で着床できずに、海まで流れ着いた、
マングローブの子供たち。
息絶える前に、わたしの腕に飛び込んで、
「拾ってくれー」と、助けを乞うてるように思えた。
でも。
両手いっぱいにマングローブを拾ったわたしは、
その判断を間違えた。
島を出る直前だった感傷も手伝って、
東京へ送る荷物の中に入れてしまったのだ。
東京でも確かに、マングローブは育つ。
但し、ある程度まで。
コップに水を入れ、挿しておくだけで、
どんどん芽が出て、大きくなる。
けれど、おそらく冬は越せないし、
たとえ育ったとしても、
コップの中では大人になれない。
植木鉢で育つ植物ではないのだ。
熱帯地域。
海水と淡水の混ざった、
干満の差のある、河口付近が、
あの子達の生きる場所。
東京の河に帰したところで、
育ちもしないし、
万が一育ってしまったら、
今度は、東京の河の生態系を乱すことになる。
東京に持って帰ってきたところで、
あの子達の幸せなどなかったのに。
島にいるうちに河に戻せばよかったなあ、
と、ため息をついていたら。
母が「友達にあげようかな」と言い出した。
「沖縄のおみやげ」
「南の島の植物」
喜んでくれる人がいるという。
よかったーー。
これで、ここに幸せが生まれる。
わたしのしたことが、
何にもならなかったのではなく、
拾ってきたマングローブで、喜んでくれる人がいる。
これで、わたしもマングローブも報われる。
ひとつの行動が、何も生み出さないのではなくて、
どんな小さなことでも、
幸せを生み出すこと。
よかった。
あのマングローブ達が、
新しいお母さん達を幸せにしますように。

